交野の民話

2011年6月10日

 

呪われた母子(のろわれたおやこ) ・夜泣き石


                          交野市史民俗編より抜粋
                          原出典は、松本壮吉著『伝説の河内』

 

 

 

 交野の里に源氏姫という美しい姫が梅千代という可愛らしい少年と住んでいた。源氏姫と梅千代とは姉弟でも何でもなかったが、ある日、源氏姫が外出した時かれと逢って知り合いとなり、梅千代が姫の家に遊びに来て、たがいに身の上話をしたところ、二人とも幼いころに母と生き別れしており独りぼっちの淋しい身の上であることが解った。そして、急速に親密な仲となり今は親身の姉弟の様に一緒に暮らしているのであった。
そのころ大和と河内の国境に「おろち山」という山があり、そこに一団の賊が住んでいた。その賊は、時折り山を降りては近郷近在の家々を襲い掠奪をほしいままにしていた。
 ある年の暮れ、この山賊の一団はまたもや山を降りて掠奪を始め、ついに交野の里にも現れ源氏姫の邸を襲って、姫と梅千代とを縛りあげて山寨(さんさい 山賊の住居するところ)へ引き揚げた。
 ちょうどその時、山寨では四〇になるかならぬの眉目美しい女の頭(かしら)が手下どもと酒宴を開いていたが、掠奪をしてきた手下どもが帰ってくると、早速その場へ呼び寄せて今日の働きの報告を聞き取った。手下どもは口々に自分たちの働きを自慢げに物語ったが、手下の一人が自分は美しい姫と少年を攫(さら)ってきたと報告すると、今まで黙っていた女の頭は、自分の耳を疑うように「なんと言いやる。姫と男の子を攫ってきたと?」と訝(いぶか)しげに聴き直した。
 そこで、その手下が、交野の里から源氏姫と梅千代を攫ってきた話を繰り返すと、女の頭は妙に気を惹(ひ)かれた模様で、早速その二人を連れて参るように命じた。手下は別室から姫と少年を連れてきたが、攫われた際のあまりの驚きからか、少年は最早(もはや)息絶えていた。女の頭は、じっとその少年の死骸に眼を注いでいたが、急に顔色を変えた。そして、手下どもに別室に下がるように命じ、彼らが別室に去ると急いで姫の縄を解き、少年の死体を抱き上げてはらはらと涙を流した。
 この不思議な様子に姫は訝しく思ったが、可愛い梅千代の死体を見るともうたまらなくなり、「弟の敵、思い知れ」と叫びざま躍りかかり、短刀で女の頭の胸を刺した。けれども、女の頭はこれに抵抗するでもなく、姫の手を掴みながら「源氏姫、梅千代、許しておくれ」と、苦痛に歪む頬に泪を滂沱(ぼうだ)と流しながら叫んだ。姫は仇の口から意外な言葉を聴いて愕(がく)然と色を失った。
 女の頭が苦痛を耐えつつとぎれとぎれに物語るところでは、女は正しく二人の実母で、まだ女頭の若い頃、ある家に嫁いで一人の姫をもうけたが、ある事情で姫を残して別れ、それから再び他家へ嫁いだ。しかし、ここでも一人の男児を産むとまた離別の憂き目を見た。それから十八年の月日を送ったが、やはり自分の腹を痛めた二人の子供のことが気にかかり、山賊をしているとはいえ、一度は逢いたいものだと念じていた。今日偶然にも二人の子供と意外な対面をしたが、それも束の間、母子相互いに殺し殺されるして悲しい最期を遂げるのだ、とのことであった。
 姉弟のように暮らしてきた私と種違いの弟であり、弟を殺した山賊の頭は私と弟の産みの母であろうとは。しかもその母を自分の手にかけてしまったとは何とした悲しいことか。姫の眼先は真暗になった。姫は母と弟の死骸にすがり付いてひた泣きに泣いたのであった。そして、姫はそこを飛び出すと付近の滝壺に身を投げて母や弟の後を追ったという。
 源氏の滝の入口、鏡池の東北のほとりに夜泣き石がある。さきの「呪われた母子」と一対にできた話だろう。源氏姫が悲しみのあまり、滝壺に身を投げて死んでから、この石が泣くというので、夜泣き石と伝えられたのではないか。

 

 

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